組織開発活動事例
研修|関係性コーチング
2015年よりOfficeItselfは《社会福祉法人江東園》に関わり、その変革をお手伝いさせてもらっています。数年のプロセスを経て、今組織はどのように変わろうとしているかをご紹介いたします。
社会福祉法人江東園
社会福祉法人江東園(http://www.kotoen.or.jp/) 1982年に社会福祉法人江東園として認可が降りて以来、老人福祉、障がい者福祉、児童福祉の3つの分野で江戸川区を中心に施設・サービス事業展開を行なっている。特に幼老一体型の取り組みや、世代間交流、その長い歴史ゆえに国内外からも注目されており、これまでに中国、韓国、シンガポール、ベトナムといったアジア圏はもとより、フランス、英国、ドイツなどのヨーロッパからも視察が来るほどである。現在職員数約250名。利用者数約500名。
組織風土改革への本気。
TQM本部 事業部長
井上 知和 氏
人財育成に取り組もうと思ったきっかけは何ですか?
井上氏 人が人をサポートしていく仕事なので、働く人そのものの成長が大事。さらに、急激な社会の変化、少子高齢化、価値観の多様化が加速度的になっていく中で、先が混沌として見えない時代になっています。
福祉業界も平成12年の介護保険導入で “福祉”から“サービス”へ大きく変化しました。
そういった変化を受けて、我々も外に出て勉強しなければと思い始めました。平成22年頃から、内閣府事業のNPO組織(非営利組織)向けのマネジメントフォーラムに参加し始めました。改めて私たちのような組織が社会に与える影響は大きいことを痛感し、やはり組織内のマネジメントが大事だと実感しました。平成23年から組織を変えようと具体的な取り組みを始めました。
我々が出会ったのも「NPOマネジメントフォーラム」のボランティアスタッフとしてでしたね。
井上氏 そうですよね!そこで様々な出会いがあって、“ファシリテーション”“コーチング”などのスキルがあるんだということを知りました。フォーラムスタッフは自らがファシリテーションなどのスキルを学ばなければならないので、すごく勉強になりました。自分が体験した、苦しんだり、考えたりしたことは腑に落ちる体験に差が出る。そう実感したので、体験型のリーダーシップ、コーチングなどの研修を法人内で取り組もうと思ったのです。
私が担当させてもらったのは平成24年の次世代を担うコアメンバーを中心とした「リーダーシップ研修」からでした。
井上 「自分がなりたい自分とは何か」スキルよりリーダーシップという観点で言うと、会社の枠を超えて、一人一人に視点を当たった考え方、豊かな人材が集まるのが組織に必要と考えたため、リーダーシップ研修を導入してまいりました。翌年もさらにその下の層にやっていただき、組織文化を創るきっかけになったと思います。私自身も初回に参加して、「自分を俯瞰してみるということ」「人のリーダーシップを尊重していく」ということが大事だなということを感じました。おかげで、働くスタッフが社風、文化から乖離して他人事になってしまったり、ほっとくと上意下達になっていたりということが起きていることをしっかり捉えられるようになりました。1つチームで起きていることは全体に起きているという考え方でものを捉えたり、視座が高まった経験を覚えています。
ここまでで見られた変化はなんですか?
井上氏 組織のあり方そのものに目を向けるスタッフが増えて、一緒に考えてくれているスタッフが増えたのが大きな実績です。メンター制度も定着しつつありますし、少しずつですが変革の土台は築かれてるなと。
コーチング研修はたしかにこれまで見なかった顔ぶれが集まってました。
井上氏 コーチング研修はやり方もそうですが、それ以上にこれから組織で目指す「協働意識」を伝えるにはとてもいい場でした。我々は長らく“施す側”にいたのですが、それでは色んなことに対応しきれない。自分以外の力を引き出すことが大事なんです。これがコーチングの研修の必要性でした。
平成29,30年は4つのチームに関係性コーチングを積極的に導入されてますね。
井上氏 当法人は急速に働き方改革も進んでいます。加えてスタッフたちの価値観の変化も大きい。時間が変則に流れていて、余裕がない中、チームの破綻をきたすようなギスギスした雰囲気もあったのも事実です。私たちの法人は理論的に言葉にする人がそれほど多くない。そんな人達同士のミスコミュニケーションは日常の業務のなかでなんとなく疲れる、なんとなく傷つく人が多くなる。対人援助職だからこそ、その中でなんとなく自己犠牲というのではないやり方を変えていかないといけない。故に関係性コーチングの必要性を感じているんです。互いに補え合えるような関係性になってほしい。
今後はどんな育成を目指していきますか?
井上氏 目指しているのは豊かな人生が送れる自律した職員を増やすと言うこと。利用者さんやご家族の価値観、職員、外国人、今後たくさんのステイクホルダーが関わってきます。当然価値観は多様化する。同時にさまざまな問題が起こることが予想される。都度、即時にそういったことに対応できる人をたくさん増やしていく必要があります。また人がどう考えて、幸せに向かっていくかというのが考えるのがしにくくなっているので、その辺りを私たちが試されている。仕事ができるスタッフというよりも豊かな人生が送れる教育、育成という観点で捉えていきたい。
ありがとうございました。
case_1
2015年〜
リーダーシップ研修の流れ
リーダーシップ研修の流れ 対象:部長、課長、課長候補者 30名実施:6ヶ月間 1ヶ月に1度3時間の研修を5回。3回目から講師2人体制で実施。目的:江東園ブランドである「世代間交流」を軸にした新たな社会の実現に向け、人財育成理念である「輪〜あいさつ・キャッチ・タフ〜」をの意識を持った人財を育てるきっかけとする。世代交代による「次の江東園」の姿を模索すべく次世代のマネージャーおよびプレマネジャーを育てるきっかけとする。互いに他の部門も関心をよせ、江東園内から“輪”を意識できる組織づくりのきっかけとする。
《参加者の声》
「明らかに”他責”だった自分に直面して、”自責”へと考え方が変われた。見たくない自分と向き合うのは大変だったけ ど、今はその経験を生かして、辛いなと思う時こそしっかり向き合える強さを手に入れたと思う。」「内省する力が強くなった。一旦立ち止まって考える。そのおかげで反応的に動いていた自分を客観的に見れている。 さらに、どんどん外に飛び込んで行こうと思えるようになった。外の世界は怖い時があるが、それでも飛び込みたい という気持ちの方が強くなった」
個人と組織の
成長スパイラルを創る
case_2
2017年:特養サポート部 特養サポート課(9名)
2018年:マネジメントチーム(7名)
特養サポート部
部長松沢 一樹 氏
松沢部長が率いる特養サポート部(部下に3つの課が存在)では2017年に特養サポート課のコアメンバー、2018年には特養サポート部の課長以上のマネジメントチームで関係性のコーチングを約半年に渡って受けた。2017年のメンバーはその変革の経緯が認められ、日本のコーチング事業を牽引している株式会社ウェイクアップが主催する「ウェイクアップアワード」も受賞している。で江東園では規模の大きい部署であるゆえに、この部の変化は江東園全体への影響が大きい。
2年続けて関係性のコーチングを受けられましたね。リーダーとしては、この2年の変化をどう受け止めましたか?
松沢氏 それぞれ扱ったチームが異なりましたけど、共通していたのが、「利用者中心のケア」と考えたときにお互いの意思疎通が難しかったこと。たとえマネジメント側同士でもこれが異なると下のメンバーにも利用者さんにも大きな影響があります。コーチングを受けて、この辺りはだいぶスムーズになってきたと思う。お互いの相互理解や、意思疎通ができるようになってきて、現場レベルまで伝えようとする努力が今までとは違うところで、当事者意識や視座の高さ上がったと実感しています。そして、今までは縦割りなところがありましたが、徐々に横のつながりが出てきた。もう少し細かい変化でいうと、サポート課のコアメンバーで受けた時には、「下にどう伝えるか」というところでは、コアメンバー自体で「何のためにこれをやるのか」ということをこれまでなんとなくで共有してきたことをちゃんと言葉で共有できるようになったこと。文脈が下までちゃんと伝えられるようになりました。さらに課横断のサポート部マネジメントチームとして受けたおかげで、「介護を介護サポートだけでやらない」意識、他職種との協力体制に大きな違いができてきましたね。色々な考え方を持っている課のマネジメント層がお互いに相互理解しあってやることが、サポート部全体に大きな影響を与えています。
松沢さん自身のリーダーシップの変化はありましたか?
松沢氏 前までは自分の見えている正解や理論に引っ張りがちでした。ですが、関係性コーチングを通じて、自分が間違っているところも指摘してもらえたので、自分から見ると正解かもしれないけど、それって思い込みだったりするのだなと受け入れられるようになった。最初は感情的に難しかったですが(笑)。まずは色々な意見も聞いた上で判断することの大事さを実感しました。そして、それをなぜ感じたのか、説明をする作業をサボっちゃいけないと感じた。いろいろな意見が出てもいいけど、同じ方向だけはむきたい。ゴールは一緒で登り方が違うのでもいい。それは巻き込みにつながるのかと思った。自分の中ではそこが変わりました。
今後の人材育成に関しての考えをお聞かせください。
松沢氏 介護は間口が広がったので、今後いろいろな人種が入ってきます。でも大事なのは相手が人間だということ。人間の要求に対して答えるスキルや専門性がないと答えられない。とはいえ,それ以上に人材育成は人間力。これが問われていると思います。
ありがとうございました。
参考:組織活性化ラボHP ペアコーチのHPに当事例が掲載されました。
関係性コーチングの流れ
2018年マネジメントチーム
case_3
個人と組織の
成長スパイラルを創る
障がい者通所施設 えぽっく 現場チーム(14名)
えぽっく 課長
秋元 真紀 さん
2018年に江東園の障がい者福祉サービスえぽっくでは、課長以下現場のメンバー14名の関係性コーチングを行なった。障がい者と向き合う力のあるメンバーは時にそれぞれの思いや経験があるゆえにお互いの関係性を後回しにしがち。そのためにチームとして仕事をするというところが組織として弱かった。
関係性コーチングを受ける前と後の状態について教えてください。
秋元氏 そもそも関係性コーチングを導入したかったのは、私たちのトップダウンの風潮が長く続いていて、自分自身が課長になっ時にチームで何かするというところが弱いと感じていたから。上からも下からもお互い遠慮して肝心なことが話されていない状態だと感じていました。現場レベルでは小さなまとまりなら意見が言いやすいこともあるだろうけど、全体となった時に心理的安全性が低い。言えない、言ってもしょうがないという諦めが出ており、チーム力が弱かったんですね。人が信頼できないという1、2年目。人に依頼できない。遠慮なく話せない。長くいるから色々逆に頼めないという状態も起きていた。何が起きても他人事というところも改善したいなと思いました。コーチング後は本当にじわじわと変化を感じています。
もちろん人によっては変化はバラバラで、明らかに顕著に変わった職員と、終わってから変わってきた職員と、まだだなという職員と分かれてきていますね。
研修中変化したのは、1、2年目です。自分の意見を言えなくて顔色見ながら言われたことだけ淡々とやっていたのが、研修を通じて、やりたいことを言えるようになって、すごく表情も明るくなりました。自信がついたと言ってきた。
後から変わってきたのは3〜5年目。後輩に押されて、自分たちも頑張らなきゃ!という変化ですね。1人は自身の後輩育てについての大きな変化を私に伝えてくれました。そんな風に後輩をフォローアップしてくれる職員が増えました。
秋元さん自身のリーダーシップに何か変化ありましたか?
秋元氏 人を「色眼鏡で見ない」という考え方ですね。メンバーを見るときの色々な視点を手に入れることができるようになりました。スポットライト、伸び代に着目できるようになった。それだけではなく、相手にそれを伝えられるようになりました。
私自身も現場になるべく出て、距離感が生まれないようにしています。そしてマネジャーとしてやらなければならなかったことを一つずつ実施もしています。自分の行動も変わったことも含めて改めてチームで受けたことの意味を感じています。
最後に秋元さんの人材育成についての考えをお聞かせください。
秋元氏 改めて、人に関わるということは、ちゃんと相手の感情も感じる、受け取る、感情もみていくことが必要なんだということを感じます。感情を汲み取る力がないと育成も難しいなと思いますね。
ありがとうございました。